[ 2007/11/28 ]

ウィーンといえば“音楽の都”。でも、音楽だけでなく、さまざまな文化が花開いた街でもあることはご存知の通り。ここにも、文化や芸術を愛し、保護してきたハプスブルク家の豊かな精神が大きく影響しています。ハプルブルク家が統治した約800年の間には、様々なアートが収集され、長い時を経て今なお輝きを放ち続けるそれらの至宝たちとは、市内に点在する美術館で対面することができます。例えば、シェーンブルン、ベルヴェデーレ、ホーフブルクの各宮殿。それぞれ美術館としても素晴らしい役割を果たしています。これまで教科書の上で観てきたような人類遺産級のアートを実際にこの目で鑑賞できるだけでも有り難いのに、歴史的な建物の内部を見学できるという光栄にも預かることができるのですから、ウィーンに来たら美術館めぐりをしない手はありません。

アルベルティーナも、ホーフブルク王宮の一角にある宮殿美術家のひとつ。
レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラフェエロ、ミケランジェロ、ルーベンス、レンブラントなど名だたる画家の作品がさりげなく展示されているのにびっくり。

なかでも、ここのコレクションの目玉のひとつ、デューラーの「うさぎ」は必見。まるで、絵の中からぴょんと跳び出してきそうな、キュートでリアルなうさぎの姿に目が釘付け。特に、息を吹きかけたらふんわりと波打ちそうな、柔らかい毛の質感が見事。思わず手を伸してその温もりに触れたくなるほどの生命力を放っていました。

映画『バベル』でも再び脚光を浴びた「バベルの塔」他、世界一のブリューゲル・コレクションを誇る美術史美術館(オーストリア航空の半券で入場無料に!)も見逃せません。美術品の収集において、世界で最も豊かで優れているとの評価を持っているそう。ここは、皇帝家が所蔵していた膨大なコレクションの収納庫として、1872年~1891年にかけて建てられたそう。重厚で美しいインテリアを誇るこの建物が、収納庫だったとは気の遠くなるほど贅沢なお話です。

2001年、リンク外にはかつてハプスブルグ家の所有する名馬の厩だった建物を再生させて誕生した複合美術施設ミュージアム・クオーター(MQ)も、アート好きなら必ず訪れたい場所。約6万平方メートルの敷地内には、シーレやクリムトを所蔵するレオポルト美術館、ウィーン・ルートヴィッヒ財団近代美術館、クンストハレなどが集まっています。どうやらここは地元の人々の憩いの場のひとつでもあるらしく、オブジェが置かれた中央の広場には、恋人や友人、家族同士でゆったりと語らっている姿や、子供たちが駆け回る姿が見られ、とてもほのぼの。

アートを特別なもの、敷居の高いものと考えず、身近に感じているウィーンの人々の豊かな日常が感じられました。

いずれも広大な美術館。つい夢中になって何時間も歩き回ったりして疲れてしまうかもしれませんが、心配はいりません。以前もご紹介しましたが、美術館には素敵なカフェが併設されているところも多いのですから。

アルベルティーナには、7,ああ誘惑のウィーングルメに登場したブティックホテルDO&COと同じ系列のカフェ「DO&COアルベルティーナ」が。スタイリッシュな内装と定評のあるメニューでゆったり。今はもう寒いですが、夏場ならテラス席もおすすめです。

美術史博物館の中央ドームの下には、豪華で気品ある雰囲気の中、コーヒーや軽食、もちろんケーキも楽しめるカフェスペースが。

ここは美術品が並ぶ部屋に囲まれているので、鑑賞に疲れたら優雅にひと休みをして、またフレッシュな気分でアートに向き合えるのが嬉しい。例え疲れていなくても、この近くにやって来たら、容赦なく鼻をくすぐるコーヒーの芳香に抗うことなど不可能なのですが。

クリムトの「接吻」がたたずむべルヴェデーレ宮殿をはじめ、すでにこのブログでご紹介したアート・プレイスの他にも、リヒテンシュタイン、応用美術博物館、クンストハウス・ウィーンなど興味深い場所がいっぱいです。行くべきところがありすぎて、旅行での限られた時間が恨めしくなることも(笑)。でも、冷静に。見たいものリストを作り、優先順位を決めれば、効率よく回ることができるはずですから。

こういった国宝級のアートを所蔵する美術館ばかりが、この街のアートシーンをエキサイティングにしているわけではありません。市内には小さなギャラリーも多く存在しています。6,ウィーンへ飛んで にも登場したシュピッテルベルク界隈は、歩けばモダンアートや写真のギャラリーにぶつかるエリア。

散歩中に気になる作品に出会ったら、ふらりとギャラリーに入りましょう。お気に入りの新進アーティストを発見するのも興奮ものです。

今回、私がシュテファン寺院近くの横道に入った際に見つけたのが、SUPPAN CONTEMPORARY(Habsburgergasse 5)という現代アートのギャラリー。30年ほど前にSUPPAN夫妻が開いたギャラリーで、かつては古典も扱っていたそうですが、ここ8年ほどは現代アートを中心に紹介しているのだとか。才能を感じた若いアーティストたちに発表の場を提供し、活躍を応援しているのだと、オーナーのSUPPAN夫人がとても親切に教えてくれました。立ち寄った日には、スロベニアの若手写真家EVA PETRICのセルフポートレートを展示中。今回の作品は、アーティストが準備から撮影、仕上げまで、ほとんど全てを一人でこなした渾身のものだそう。まっすぐとした被写体(フォトグラファー)の瞳とユニークなアングルに、若々しいパワーが感じられました。すでに売約済みのシールが貼られている作品も多かったのもすかさずチェック。アートで食べていくのは大変なことでしょうが、応援者との出会いは、若手アーティストにとって今後を左右する大きな転機になるのでしょうね。

美術館と違って、ギャラリーならば価格次第では気に入った作品を購入することも可能です。でも実は、ここウィーンでは、ハプスブルク家の至宝が入手できるチャンスを提供している場があるとこをご存知ですか? それは、国営質店のドロテウム。日本でイメージする質屋とは違い、ネオ・バロック様式の美しいオークションハウス。大小あわせて年間約600回ものオークションが行われているというから驚き。誰でも参加できるので、覗いてみるのも面白そう。今回は行かれませんでしたが、次回はぜひにと思っています。

でももし、「もっと気楽に」というのであれば、アンティークショップがおすすめ。私が、今回の旅での最も気に入ったおみやげのひとつを見つけたのは、ステファンさんのお店でした(Habsburgergasse 14)。このアンティークショップは、品揃えこそさほど多くはないけれど、小さなウィンドーに小さな小さな動物の置物がずらりと並べてありました。

そこで、色違いではありますが我が家の愛犬に似たキュートなパグを発見! ステファンさんにお願いして、手に乗せてもらうと、高さわずか3センチほどの小さな小さなパグはけっこう重い。なかなかの代物であることを、重みの中に感じ取り、「結構高いかも」と覚悟しながら値段交渉開始。その結果、もともと50ユーロ(8400円程度)でしたが、何度かのやり取りの後、「もうこれ以上は無理です……」というステファンさんの悲しそうな声を合図に、37ユーロ(約6216円)で握手。どちらもご機嫌に商談を成立させたことで、おしゃべりも弾みました。

看板犬ダックスフントの話から、ウィーン国立オペラ座の音楽監督であるマエストロOZAWA(小澤征爾氏)の話まで…。どこへ行ってもアートの話で盛り上がることのできるウィーン。やはり、ここは芸術家たちの魂が宿る豊かな“芸術の都”なのです。

[ 2007/11/21 ]

私には、とても好きな瞬間というのがいくつかあります。オーケストラが演奏を始めるほんの一秒前、満員の劇場が水を打ったようにシーンとなり、自分の鼓動までもが聞こえてくるあの瞬間。映画が始まる数秒前、映画館が暗転するあの瞬間。そしてもうひとつ。旅に出て、朝起きたときに、ホテルの部屋のカーテンをサーっと開くときのあの瞬間。それらは皆、何かが始まるという興奮と期待がはじける前の幸せな予感に満ちたひと時です。

今回のウィーンでも、朝、カーテンを開けるたびごとに、そんな予感を感じてきました。窓から見渡す景色は、グリーンに黄色や赤といった秋色が入り混じりはじめていて、とても美しい。こういった風景が、多くのアーティストにインスピレーションを与えてきたのでしょう。部屋からは、初日に挨拶に立ち寄ったベートーヴェンの銅像が見えます。街のいたるところに、有名な作曲家、作家らの銅像が建ち、ウィーンがいかに西洋芸術史の中で重要な役割を果たしてきたかがわかります。

今日はいよいよ、オーストリアのみならず、ヨーロッパで栄華を極めたハプスブルク家の宮殿を歩きます。まずはかの有名なシェーンブルン宮殿。ここは、ウィーンの中心であるシュテファン寺院から直線で西に5kmほどのところにあるので、地下鉄で移動。最寄りはシェーンブルン駅。降りると、多くの人が同じ方向に向かうので、すぐにわかります。ここは歴代君主の離宮。マリア・テレジアもマリー・アントワネットもここで過ごし、オランジェリーホールではモーツァルトも指揮しています。神童と呼ばれた彼が6歳のとき、マリー・アントワネットにプロポーズしたという微笑ましい逸話が生まれたのもここ。そして、あのウィーン会議も行われました。宮殿の前に立つだけで、数々の歴史が刻まれた場所という事実にちょっと興奮してきます。

宮殿内では、世界的に人気のある悲劇の皇妃エリザベート(シシィ)の部屋が公開されていて、ダイエットにいそしんだ彼女の運動器具や、ドレスなどが展示されているので興味深く、同性としてはなんだか親しみを感じます。

宮殿の後方には、よく手入れの行き届いた、天国のような庭園があり、ネプチューンの噴水、そして小高い丘にはグロリエッテ展望台が。この展望台(今は絶景カフェに)まで、息を切らしながらも登ってみると、眼下にはシェーンブルン宮殿の向こう側にウィーン市が広がっています。ここから見下ろす市内の風景は最高! その様子はまるで、美しい女神の前に街が跪いているようです。歴代の君主も、ここから満足気に自らの民の住む街を眺めていたことでしょう。

1996年に世界遺産に登録されたこの宮殿は、建物の内部を見学しなければ入場は無料。美しい風景が広がっている庭園は散策するだけでも癒されるので、ウィーンの人々が羨ましい。市内には公園が沢山あるけれど、フランスのベルサイユ宮殿と並び称される宮殿の庭園は、やはり特別な気分にさせてくれますね。

さて、次に訪れたのは“美しい眺め”という名を持つベルヴェデーレ宮殿。ゆるやかに傾斜した庭園の両側には、上宮と下宮が建てられていて、そのいずれもが美術館。

残念ながら、庭園はお手入れ中でネットなどがかけられていたけれど、ここに来た目的は美術館(特に上宮の)を見るためだったので、めげずに上宮へ入ります。そして、ゆっくりと目的の絵の前へと―。それは、グスタフ・クリムトの官能美溢れる作品群の中でも特に人気の高い「接吻」。男性に抱きすくめられ、愛情いっぱいの接吻を受ける女性の顔はうっとりとしていて恍惚状態。ここから発せられる愛のオーラに、なんだか心がポカポカしてくるよう。ゴールドを使った色使い、立体的なテクスチャーといい、これはまさに絵画の宝石。後で聞いた話では、「接吻」はかなり頻繁に海外に貸し出されるそうなので、不在のことも多いとか。生で見られたのは、幸運とのことでした! 

何時間でも佇んでいたくなるほどの幸福感を与えてくれる「接吻」ですが、実はこの夜、オペラ鑑賞の予定があったので、そうもしていられず、一旦ホテルに帰ることに。いくらなんでも、ジーンズでオペラに行く気にはなれませんので。

本場ウィーンのオペラ座といえども、実はドレスコードはないそう。でも、素晴らしい芸術をみせてくれる人々への敬意、その特別な夜を最大限に楽しみたいという想いも込めて、やはりドレスアップはしたいもの。だって、そのほうが絶対に気分が盛り上がるはずなのですから。ホテルへ戻り、ロビーを歩いていると、クラシック音楽が流れています。日本も含め、クラシックを流しているホテルは多いけれど、これほどまでにこの音楽が似合う場所はないなと思いつつ、部屋へ。

そして、6:30PM。憧れの国立オペラ座へ。シーズン中、毎日演目が変わるという、恐ろしいほどパワフルな劇場。ウィーン市内外にある倉庫から、毎日ように舞台で必要な大道具や小道具が入り代わり立ち代わり運び込まれているのだそう。

この日の演目は、
ジュゼッペ・ヴェルディの「オテロ」
指揮:A.フィッシュ、演出:C.ミーリッツ
出演:J.ボータ、F.シュトルックマン

エントランス、そしてその天井には、夢の世界へと人々を誘うかのように美しい装飾が施されていて、足を踏み入れた瞬間から、別世界へとやってきたことを体感できます。時間がある方には、開演までの時間をゆっくりこの空間で楽しめるよう、早めにいらっしゃることをおすすめします。もちろん、ワインやコーヒーを飲みながら、この素晴らしいインテリア(ここで指揮をしていたマーラーの胸像なども)を優雅に鑑賞できますが、夢の世界には少しでも長く浸っていたいものですからね。

いよいよ開演前のチャイムが鳴り、私が大好きな最高の瞬間のひとつ、ゾクゾクするほどの静寂がやって来てオペラがついにスタート。「オテロ」は、ご存知のように、文豪ウィリアム・シェイクスピアの名作が基になっています。キプロスの総督でムーア人のオテロが、妻の浮気をある人物から耳打ちされますが、これは陰謀。事実無根の浮気話ですが、一度芽生えた猜疑心により、平常心を失ったオテロが、自らの嫉妬心に負け妻を殺し、しまいには自滅してしまうという悲劇。生きる楽器と化したオペラ歌手たちが、感情をほとばしらせながら歌う名曲の数々に感無量でした。

実は、前日にはセルゲイ・プロコフィエフのバレエで、やはりシェイクスピアの悲劇「ロメオとジュリエット」も観劇していた私。現在、某携帯電話会社のCMで使われている音楽を含む名曲目白押しのこの演目。ジュリエットを演じるバレリーナの儚げな優美さといったら!自分でも驚いたのですが、その幻想的な美しさと音楽の素晴らしさに、何度も本気で涙を流しました。しかも、ホロリとではなく、かなりボロボロと。本当に夢のようなひと時でした。と、このように、毎日違う演目を披露するウィーン国立オペラ座なら、短いステイでも違ったプログラムをいくつも楽しむことができます。ああ、こんな贅沢いいのかしら。いえ、きっとウィーンだから許される贅沢に違いありません。

この日の夜はオペラ終了後、知人が紹介してくれたウィーン在住のイギリス人、エリーと会うことになっていました。オペラ座に出かける前、彼女の携帯に連絡すると、「夜の12時頃から始まるパーティに行くんだけど、一緒に来る?」 連日、朝早くから歩き回っていたせいもあり、少々体力的にキツかったので夜遊びは心配だったけれど、彼女と会えるチャンスはこの日だけ。そこで、思い切って出かけることに。アートスクールに通いながら、自らカフェ「elliefant」を経営しているエリーは、今やっているビデオインスタレーション・プログラムのパートナー、マリオとともに終演後のオペラ座に登場。パーティ会場はオペラ座のすぐそば。パーティは学校の新学期が始まるにあたって、学生たちが主催したものなのだそう。

「学校でこの騒ぎ?」と思うほど、はじけているのは創造性と個性溢れる若者たちの集まりだからでしょうか。10歳以上も下の若者たちに囲まれて、どぎまぎしながらも、この際なのでウィーンでの生活、将来の夢などについておしゃべりしていました。マリオは日本のアートに興味があるそうで、「TAKASHI MURAKAMI(村上隆)はクール!」とか、「日本のMANGAはおもしろい」とビール片手に会話が弾みます。そうこうするうち、ソーセージでも食べに行こうという話になり、夜中の2時頃だというのにソーセージスタンドへ。焼いたばかりのあつあつケーゼヴルスト(チーズソーセージ)をごちそうしてもらいました。年下なのに、なぜかおごってくれると言ってきかない素敵な子たち! 寒いけれど、おしゃべりもソーセージも、最高。こんな風に、初めて会った人たちと親しく過ごす時間は、私にとっては最高の瞬間の連なりです。

深夜、こんな風にふらふら歩くなんてヨーロッパでは考えられないけれど、ここは安全。「ヨーロッパの中でも最も安全な街のひとつだから、凶悪事件はまれなの。めったにないけど、何か事件が起これば、大ニュースになっちゃうほどよ」とエリー。なるほど、だから真夜中でも一人で歩いている人たちが多いのね。 「そろそろ帰ろうか…」という話になったときは、すでに午前3時が過ぎていました。オペラ座まで3人一緒に歩いていくと、その前には、深夜バス乗り場があって、人がいっぱい並んでいます。こんなに夜遊びしている人がいたのね……。こんなウィーンは想像していなかった。優雅なウィーンと素顔のウィーン、両方を見て、最高の瞬間を体験できて、とても興味深い夜でした。ありがとう、エリー、マリオ。

[ 2007/11/14 ]

小さい街というのは、数日で飽きてしまうことも多いけれど、ウィーンという場所はいつまでいても飽きないところ。音楽、美術、食、建築……さまざまな興味の対象が、ぎゅっと凝縮されているから。なかでも、華やかなりしカフェ文化・スイーツ文化は見逃せません。

目抜き通りを歩いていても、オープンテラスの粋なお店、色とりどりの可愛らしいケーキやチョコレートが並ぶウィンドーが、私の行く手を阻む……。もう目につくお店に、いちいち立ち寄りたくなってしまうのです。

賑やかなケルントナー通りには、ハイナーやゲルストナーなど、王室御用達菓子店が集まっていますが、私が一目惚れしたのが街のシンボル、シュテファン寺院近くのチョコレートショップ、アルトマン&キューネ。引き出し型や本型など、カラフルな柄がプリントされた小箱に、小さな一粒チョコレートがいくつも詰め込まれた宝箱のような商品で有名。店内にはマジパンで作られた動物なども飾られているので、まるで人形の国を訪れたよう。あまりにも、非現実的で愛らしいお菓子に囲まれてなんだか夢心地でした。

老舗カフェとして有名、かのザッハトルテがいただけるホテルザッハはオペラ座のすぐ裏。カフェは観光客や地元の人々でいつも大忙し。私が出かけたときは、ちょうどおやつの時間の午後3時ごろ。入店するのに列ができるほど賑わっていました。ウィーンのカフェ文化の洗練を受けようと、ザッハトルテと泡立てミルクののったコーヒー“メランジェ”をオーダー。ゆっくりと店内を観察していると、片時も手を休めずウェイターたちがくるくると良く動きまわっています。若い男性が多いスタッフ、よく見るとけっこうな美形ばかり。しかも働き者というわけですが、世界に名を馳せる有名店だけに採用基準が高いのかも……。

ザッハトルテではこちらも有名、やはり老舗のデメルは新王宮近く。

ここでは、まずショーケースの中から好きなスイーツを選び、番号札をもらったらテラスか1、2階の店内席に座ります。

店員がドリンクの注文をとりにきたら、その際、札を渡すというちょっと変わったシステム。どれも食べたくなるけれど、やはり定番のザッハトルテ(円形の小さい方)とアンナトルテをオーダー。アンナトルテは丈夫のオブジェ風デコレーションが魅力的。へーゼルナッツ味のチョコレートで覆われているので、かなり食べ応えがありました。

こういったカフェでは、軽食も用意されているので、ランチをカフェでというのもおすすめ。軽くサラダやスープ、オードブル系のもので昼食をすませ、食後にしっかりスイーツはいかがでしょう。なんだか、デザートがメインのようになってしまいますが、女性だったら望むところではないでしょうか。

これほどまでに、ウィーンがスイーツで賑わっているのも、ハプスブルグ家のおかげとか。甘党だった王家の人々を喜ばせるため、菓子職人たちが腕をふるったと聞きます。今も、パティシエたちはその伝統に恥じまいと、その誇りを守るべく腕を磨いているのだとか。となれば、もちろんスイーツだけでなく、食事の質も高いのがこの国。食事がより充実したカフェも点在しているし、独特の雰囲気を持った個性的なカフェが市内には点在しているので、好みや気分に合わせて選べるのが嬉しい! 

私のお勧めは、パルメンハウスとカフェ・ハヴェルカ、そして右の写真のシュテファン寺院の正面にあり、絶好の角度から眺められるDO&COホテルのバー・オニキス(昼はカフェ)。

パルメンハウスは、新王宮の横にあるブルク公園内にあります。もとは1901年に作られた皇帝の植物園。それを利用しただけあって、内部は今も植物が見事に茂っています。

ここは、植物のエネルギーを胸いっぱいに吸い込める憩いの場。お天気の良い日は、美しい日差しがキラキラと差し込んでくるので心地よい。 食事も美味しく、ここで過すひとときは最高でした。

一方、繁華街にあるハヴェルカは、日中でも、もう夜?と思ってしまうほど暗い店内。カフカを筆頭に、芸術家たちが愛したカフェとして有名です。歴史を刻んできた味のあるお店は、想像力をかきたてられるインテリアが魅力的。古く色あせたポスターやちょっとくたびれた家具など、初めての私でもすぐに愛着を感じてしまう雰囲気。すっかり落ち着いてしまって長居することに。きっと多くのアーティストたちが、ここの店で長い時間を過し、作品の構想を練ったのでしょう。

私が立ち寄った日は、オーナーのハヴェルカおじいさんが入り口近くで静かに座り、「どうぞお座りください」と招き入れてくれました。「どこから来たんですか?」 「日本からです。噂には聞いていたけれど、素敵なお店ですね……」などとお話をすることしばし。優しいハヴェルカさんと出会ったことで、よけいにここから去りがたくなってしまいました。もう二度と会うこともないかもしれない人々。でもそんな人々と言葉を交わす一瞬一瞬も、旅がくれる宝物なのだと実感。

こんな風に、お気に入りのお店を見つけたら、滞在中頻繁に通うのもいいし、いろいろなカフェめぐりをしても楽しい。どんな楽しみ方もできそうです。

食事の質も高いと先ほど言いましたので、お食事についてもお話を。ウィーンといえば、シュニッツェルと思っていた私。確かに有名なのですが、当然ながらその他にももっといろいろ種類はあります。地元の人に紹介された市立公園近くのGmoaKella(1858年オープンとか)では、ウィーンの伝統料理がいろいろ楽しめるので、日本でも食べられるシュニッツェルはぐっと我慢。皇帝フランツ・ヨーゼフ1世が、何と毎日食べるほど好きだったというターフェルシュピッツをオーダーしてみました。茹で上げたとろとろの牛肉に野菜、西洋わさびと一緒に。ボリュームがあるのに、あっさりした味。しかもわさびの程よい辛味が肉の甘みと絶妙に混ざり合って、食がすすみます。柔らかくて、噛むほどに旨味が口いっぱいに広がるおいしさ。皇帝のお気に入りだったのも頷けます。ラムのコトレットや牛肉の煮込みグーラッシュも舌の肥えたウィーンの市民を満足させてきた伝統を感じます。

レストランではもちろん、デザートも無視できません。しっかり食べたのに、ずっしりとしたアップルパイ、アップルシュトルーデルもちゃんと完食。ダイエットのことを考えるなど、ウィーンでは無粋なことと割り切るしかありませんね。

もちろん、食事にはワインも添えて。オーストリアワインは美味しいと有名だけれど、この日はちょっと珍しい飲み物に出会いました。その名もシュトルム。これは、ぶどうの収穫時期である9月、収穫直後に出回る飲み物で、醗酵しきっていないワインの一歩手前の状態のもの。

ジュースとワインの間の状態なので、口当たりもよくゴクゴクと飲めてしまうのですが、まだ醗酵途中なので、体に入った後でお腹にいたずらをするそう。多く飲みすぎると酔いが回って頭がクラクラしたり、お腹が痛くなったり…。だから、嵐という意味のシュトルムと名づけられているとか。日本人にとっての桜のようなもので、毎年、出回る時期が変わるそう。人々はこれを待ち望み、これによって季節の移り変わりを感じるのだそうです。毎日味が変化するうえ、栓をして運んだりすると爆発(破裂?)するので、輸出ができない。一年に一度のちょうどよいタイミングで出会えたのはラッキー。

もし、9月に旅行する機会に恵まれたなら、“嵐”のこともお忘れなく!

シュトルムは、レストランだけでなく、市場でもボトルが並んでいるのをみかけました。市場といえば、有名なのはナッシュマルクト。ここに来ると、ウィーンの胃袋を支えるありとあらゆる新鮮な食材が並んでいるので、時間があれば覗いてみることをおすすめします。きっと、オーストリアの美味しさの秘密に出会えるはずですよ。

[ 2007/11/07 ]

いよいよ今日は、ウィーンへ移動。プラハも素敵な街だったけれど、朝からすでに気持ちはウィーンに飛んでいます。プラハからウィーン空港までは、40分ほどの短いフライト。オーストリア航空なら、日に4便も運行しているので、好きな時間を選べて便利。個人旅行には最適です。
今回は、午前中の便をチョイス。11時40分に出発し、昼過ぎにはもう着いてしまうのですから、ヨーロッパの旅は快適の極み。飛行機に乗るとすぐに、窓からヴァルタヴァ川のうねりに沿って美しく広がるプラハが見えます。今更ながら、ちょっと寂しくなったりして。今度はいつ来られるかしら、と。とはいえ旅人というのは身勝手なもの。数分後には、ウィーンでは「あれを観たい」「これを食べたい」と期待が胸に広がっていきます。ガイドブックを手にとって、ゆっくりとその期待に身を任せたのでした。

そうこうするうち到着したのが、3日前に乗り継ぎをしたウィーン空港。ここから市内までの移動には、CAT(City Airport Train)を使うことに。海外に来ると不案内なせいもあって、つい「空港から市内まではタクシーで」と思ってしまうけれど、ウィーンでは便利で早いこの直通列車が断然おすすめ。空港とウィーンの中心部であるミッテ駅までを、何と16分で繋ぐという驚きの速さ。チケット(9ユーロ)は空港内の券売機で簡単に買え、駅は空港のすぐ下。エレベーターで階を移動すれば、そこはもうプラットフォーム。初めてなのに迷うことも、手間取ることも一切なく、やってきたCATに無事乗り込みました。楽で、便利で、清潔で、その上ゆったり広々していてとても静か。しかも、この列車にも犬が客席に同席。やはりウィーンも、ヨーロッパの他の都市と同様に、犬に優しい街のようで、なんだか嬉しくなりました。

田園風景が次第に賑やかになってくる車窓の風景を飽きもせずに見ていると、すぐにミッテ駅到着を知らせるアナウンスが。わかっていたとはいえ「もう?」という感じ。結局、遅いランチにまだまだ間に合うという時間に、市内に着いてしまったのでした。

この街に一目惚れ

ホテルに着いて、荷解きをするとすぐに出かける支度を。少しぐらいは休もうかとも思いましたが、窓から街並みを見ているといてもたってもいられなくなるもの。とにかくウィーンの空気を吸ってみたいと、あてもないのに飛び出しました。ランドマークが無数に存在するウィーンですが、とりあえず歩けそうな距離に位地するオペラ座まで行ってみることに。ホテルを出て、旧市街地を環状にぐるりと囲む道路、リンクにぶつかったら、ずんずんオペラ座方向へ進むのみです。

すると、不思議な感覚にとらわれました。生まれて初めての場所を歩いているというのに、不安も違和感も全くなし。むしろ、確信めいた気持ちを抱えながら、目的地へと向かっていけるのです。これはもちろん、市内をぐるりと回る路面電車が目安となってくれているせいもあるでしょうし、さんざんガイドブックを見ていたせいもあるでしょう。でも、旅人が降り立ってすぐに馴染める、その街の位置関係を感覚的につかめるというのは、なかなか体験できないもの。なんだかウィーンって旅人に優しい! そう実感したのと同時に、「この街、大好き」という恋心のようなものも芽生えていることにも気がつきました。

まだ観光など全くしていないというのに。まさに、これが一目惚れというものなのでしょう。

インペリアル・トルテでも有名なインペリアル・ホテルの前を通り、トルテに気をとられながらも、まずは行き着いたオペラ座。観光客も多く、人が大勢行き交っていますが、街特有の“雑踏”や“喧騒”があまり感じられません。車の量も、東京に比べればかわいいもの。それなのに道幅が広い。建物と建物の間の空間も贅沢に取られているせいか、全体的に街は広々としています。小さい街だといわれるけれど、狭苦しい感じは一切なし。そんな見事な都市計画のせいもあるのでしょうか。ゆったりとしていて緑も多いウィーンの街並みは、プラハより洗練されているという印象です。

その街をとりあえずぐるりと一回りしたくて、今度は路面電車でリンクを回ってみることに。

オペラ座を起点に、美術史博物館や王宮の横を通り、市庁舎公園、ウィーン大学、ドナウ運河にぶつかったら、しばらくそれに沿って走り、市立公園へ。するともうすぐ、再びオペラ座が見えてきます。これで、即席観光のできあがり。

明日は主要な観光地を周るつもりなので、良い予習ができました。路面電車には右回りと左回りがあるそうなので、両方乗ってみると違った風景に出会えるに違いありません。

リンクを一周したら、二周目は気になるところで降りてみることに。するとオペラ座を行過ぎてすぐ、気になる巨大建造物が左手に。これが、ハプスブルグ家の厩だったという建物を改築した複合美術施設MQ。実はこの裏手に気になっている地区があるので、ここで下車。MQの敷地内を通り抜け、行き着いたのが目的のシュピッテルベルク地区。こじんまりとしたムードのある石畳の小路に、ギャラリーやレストラン、気になる雑貨店などが並んでいます。

夏から秋に変わる過しやすいこの時期に、オープンテラスでお茶でも飲んだら気持ちが良さそう! いや、飲むならワインかな……。

この辺りは、ところどころに面白いギャラリーやお店が点在しているので、ぶらぶらと、あてもなしに歩いてみても楽しそう。安全なウィーンでは、路地裏に迷い込むのも大歓迎。シュピッテルベルグ界隈なら、絶対に面白いものが見つかるはず。

かく言う私が遭遇したのは、道にたたずむ体重計。「なんで? どうして?」。訳がわからないながらも、とりあえず乗ってみたくなるのが好奇心。お金を入れると動くとか、動かないとか。でも、こういう不思議に出会えるのだから、ほんとうに異文化というのは面白いものです。

さらに、こんなカフェも発見。お店で使っているインテリア(家具や照明を含む)は全て商品で売り物だというダス・メーベル。椅子もテーブルもひとつひとつスタイルの違うものが置かれているので、座ってみて気に入ったら買うこともできるという体験型インテリアショップでもあるというわけです。それだけに、とてもスタイリッシュな空間。ギャラリーが多く、ちょっとアバンギャルドな香りも漂うこの界隈に良く似合っています。

明日からは、有名な老舗カフェも巡る予定なので、伝統とモダンの両方をじっくり見て、感じたいと思います。

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