小さい街というのは、数日で飽きてしまうことも多いけれど、ウィーンという場所はいつまでいても飽きないところ。音楽、美術、食、建築……さまざまな興味の対象が、ぎゅっと凝縮されているから。なかでも、華やかなりしカフェ文化・スイーツ文化は見逃せません。
目抜き通りを歩いていても、オープンテラスの粋なお店、色とりどりの可愛らしいケーキやチョコレートが並ぶウィンドーが、私の行く手を阻む……。もう目につくお店に、いちいち立ち寄りたくなってしまうのです。
賑やかなケルントナー通りには、ハイナーやゲルストナーなど、王室御用達菓子店が集まっていますが、私が一目惚れしたのが街のシンボル、シュテファン寺院近くのチョコレートショップ、アルトマン&キューネ。引き出し型や本型など、カラフルな柄がプリントされた小箱に、小さな一粒チョコレートがいくつも詰め込まれた宝箱のような商品で有名。店内にはマジパンで作られた動物なども飾られているので、まるで人形の国を訪れたよう。あまりにも、非現実的で愛らしいお菓子に囲まれてなんだか夢心地でした。
老舗カフェとして有名、かのザッハトルテがいただけるホテルザッハはオペラ座のすぐ裏。カフェは観光客や地元の人々でいつも大忙し。私が出かけたときは、ちょうどおやつの時間の午後3時ごろ。入店するのに列ができるほど賑わっていました。ウィーンのカフェ文化の洗練を受けようと、ザッハトルテと泡立てミルクののったコーヒー“メランジェ”をオーダー。ゆっくりと店内を観察していると、片時も手を休めずウェイターたちがくるくると良く動きまわっています。若い男性が多いスタッフ、よく見るとけっこうな美形ばかり。しかも働き者というわけですが、世界に名を馳せる有名店だけに採用基準が高いのかも……。

ザッハトルテではこちらも有名、やはり老舗のデメルは新王宮近く。

ここでは、まずショーケースの中から好きなスイーツを選び、番号札をもらったらテラスか1、2階の店内席に座ります。

店員がドリンクの注文をとりにきたら、その際、札を渡すというちょっと変わったシステム。どれも食べたくなるけれど、やはり定番のザッハトルテ(円形の小さい方)とアンナトルテをオーダー。アンナトルテは丈夫のオブジェ風デコレーションが魅力的。へーゼルナッツ味のチョコレートで覆われているので、かなり食べ応えがありました。

こういったカフェでは、軽食も用意されているので、ランチをカフェでというのもおすすめ。軽くサラダやスープ、オードブル系のもので昼食をすませ、食後にしっかりスイーツはいかがでしょう。なんだか、デザートがメインのようになってしまいますが、女性だったら望むところではないでしょうか。
これほどまでに、ウィーンがスイーツで賑わっているのも、ハプスブルグ家のおかげとか。甘党だった王家の人々を喜ばせるため、菓子職人たちが腕をふるったと聞きます。今も、パティシエたちはその伝統に恥じまいと、その誇りを守るべく腕を磨いているのだとか。となれば、もちろんスイーツだけでなく、食事の質も高いのがこの国。食事がより充実したカフェも点在しているし、独特の雰囲気を持った個性的なカフェが市内には点在しているので、好みや気分に合わせて選べるのが嬉しい!
私のお勧めは、パルメンハウスとカフェ・ハヴェルカ、そして右の写真のシュテファン寺院の正面にあり、絶好の角度から眺められるDO&COホテルのバー・オニキス(昼はカフェ)。
パルメンハウスは、新王宮の横にあるブルク公園内にあります。もとは1901年に作られた皇帝の植物園。それを利用しただけあって、内部は今も植物が見事に茂っています。

ここは、植物のエネルギーを胸いっぱいに吸い込める憩いの場。お天気の良い日は、美しい日差しがキラキラと差し込んでくるので心地よい。 食事も美味しく、ここで過すひとときは最高でした。
一方、繁華街にあるハヴェルカは、日中でも、もう夜?と思ってしまうほど暗い店内。カフカを筆頭に、芸術家たちが愛したカフェとして有名です。歴史を刻んできた味のあるお店は、想像力をかきたてられるインテリアが魅力的。古く色あせたポスターやちょっとくたびれた家具など、初めての私でもすぐに愛着を感じてしまう雰囲気。すっかり落ち着いてしまって長居することに。きっと多くのアーティストたちが、ここの店で長い時間を過し、作品の構想を練ったのでしょう。

私が立ち寄った日は、オーナーのハヴェルカおじいさんが入り口近くで静かに座り、「どうぞお座りください」と招き入れてくれました。「どこから来たんですか?」 「日本からです。噂には聞いていたけれど、素敵なお店ですね……」などとお話をすることしばし。優しいハヴェルカさんと出会ったことで、よけいにここから去りがたくなってしまいました。もう二度と会うこともないかもしれない人々。でもそんな人々と言葉を交わす一瞬一瞬も、旅がくれる宝物なのだと実感。
こんな風に、お気に入りのお店を見つけたら、滞在中頻繁に通うのもいいし、いろいろなカフェめぐりをしても楽しい。どんな楽しみ方もできそうです。

食事の質も高いと先ほど言いましたので、お食事についてもお話を。ウィーンといえば、シュニッツェルと思っていた私。確かに有名なのですが、当然ながらその他にももっといろいろ種類はあります。地元の人に紹介された市立公園近くのGmoaKella(1858年オープンとか)では、ウィーンの伝統料理がいろいろ楽しめるので、日本でも食べられるシュニッツェルはぐっと我慢。皇帝フランツ・ヨーゼフ1世が、何と毎日食べるほど好きだったというターフェルシュピッツをオーダーしてみました。茹で上げたとろとろの牛肉に野菜、西洋わさびと一緒に。ボリュームがあるのに、あっさりした味。しかもわさびの程よい辛味が肉の甘みと絶妙に混ざり合って、食がすすみます。柔らかくて、噛むほどに旨味が口いっぱいに広がるおいしさ。皇帝のお気に入りだったのも頷けます。ラムのコトレットや牛肉の煮込みグーラッシュも舌の肥えたウィーンの市民を満足させてきた伝統を感じます。
レストランではもちろん、デザートも無視できません。しっかり食べたのに、ずっしりとしたアップルパイ、アップルシュトルーデルもちゃんと完食。ダイエットのことを考えるなど、ウィーンでは無粋なことと割り切るしかありませんね。
もちろん、食事にはワインも添えて。オーストリアワインは美味しいと有名だけれど、この日はちょっと珍しい飲み物に出会いました。その名もシュトルム。これは、ぶどうの収穫時期である9月、収穫直後に出回る飲み物で、醗酵しきっていないワインの一歩手前の状態のもの。
ジュースとワインの間の状態なので、口当たりもよくゴクゴクと飲めてしまうのですが、まだ醗酵途中なので、体に入った後でお腹にいたずらをするそう。多く飲みすぎると酔いが回って頭がクラクラしたり、お腹が痛くなったり…。だから、嵐という意味のシュトルムと名づけられているとか。日本人にとっての桜のようなもので、毎年、出回る時期が変わるそう。人々はこれを待ち望み、これによって季節の移り変わりを感じるのだそうです。毎日味が変化するうえ、栓をして運んだりすると爆発(破裂?)するので、輸出ができない。一年に一度のちょうどよいタイミングで出会えたのはラッキー。
もし、9月に旅行する機会に恵まれたなら、“嵐”のこともお忘れなく!
シュトルムは、レストランだけでなく、市場でもボトルが並んでいるのをみかけました。市場といえば、有名なのはナッシュマルクト。ここに来ると、ウィーンの胃袋を支えるありとあらゆる新鮮な食材が並んでいるので、時間があれば覗いてみることをおすすめします。きっと、オーストリアの美味しさの秘密に出会えるはずですよ。





